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すると、奇妙な事に一人の女性が喫煙所で自販機と格闘しているのに出くわした。
「どうかしましたか?」
長い黒髪を腰辺りで白い羽のようなリボンで纏めた女性であった。
「んしょんしょ……」
自販機の底に手を伸ばす女性。
たぶん、硬貨が転がり込んだんだろう。
「手伝いましょうか?」
「……ん?」
僕の呼び掛けに気づいたのか、女性は立ち上がり向かい合う。
あらためてみると、美しい女性であった。
少しあどけなさの残る、
顔立ちにモデルのような
長い足。
たぶん、僕とあまり身長は変わらないだろう。
「ねぇ、君」
艶やかな声、声優で例えるなら『北都 南』だ。
「なんでしょうか?」
「『セックスピストルズ』のデビューアルバムってなんだっけ?」
「え?……あ、えーと……『never mind the BOLLOCKS』だったかと」
この女性はいきなり何を言い出すかと思えば、洋楽バンドのアルバム名を教えてだって?
意味不明だ。
幸い『セックスピストルズ』はオリジナルアルバムは一枚しか出していない。だから、管轄外のパンクロックでもカバーできた。
「そうだったね。ありがとうね。私忘れっぽいからさ。……あ、もうこんな時間だ、……じゃね」
そう言うと、女性は来た道と逆方向に走っていった。
何故、自販機の下を覗いていたのかは不明だが、
面倒な事にならぬよう。
不思議な事には目を向けないことにする。
戻ってきたら、友永は
ポップコーンを頬張っていた。女性の姿は見当たらない。
席につき、待つこと五分。
ビーンと音がなり、
プラネタリウムの
始まりを告げた。
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