切なさは星屑と共に

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「座りなよ」 水無月はそれに従い 手近な丸椅子に腰掛ける。 私は胸ポケットから シガレットを取りだし、 サッと火を点ける。 水無月は相変わらず 無愛想であった。 焦げ茶色の革バックから 、数枚のホチキス留めされた資料を差し出し、 私はそれを空いている左手で受け取る。 「……で、何が言いたいわけなんだい、水無月さん」 「教えてください。三年前に何があったのか」 資料を上から流し読むが、まぁ、ネットやら新聞やら地元民の証言やら が、ずらーと埋め尽くされている。 「まぁ、よく集めたものだな、うん」 「先生は知っているんでしょう?あの日、何が起こったか」 「うん、知ってる」 私は三年前、ちょうど 今日、ここで、一人の少年と少女が消えた。 事件性は全くと言っていいほど無く、その時は 家出くらいの気持ちで 彼らの家族らは心配していた。 ところが、二人は帰ってこなかった。 3ヶ月もの間、この布茅町から失踪していた。 有り得ないことだ。 布茅村はド田舎。 コンビニまで行くのに 車で30分、町と呼べる 町に出るまでに、一日一本のバスで一時間。 少年、少女が逢い引き したところで不可能な 事なのである。 バスに乗ったと言う証言も無かったから、村の人々は遭難の線を中心に 捜索を開始したが、一向に見つからない。 ところが、ある日 少年が帰ってきた。 彼は突拍子もなく 帰ってきたのであった。 しかし、少年の瞳に 生気は無く、灰色に濁った瞳はまるで、霊にでも憑かれたのかと感じさせるくらいだった。 脳に損傷は無く、至って健康体の少年は帰ってきた次の日、意識を失い。 醒めぬ眠りに就いた。 少年の手紙には 『欠片探しにいってきます』 と書き残されていた。 辺鄙な山奥の小さな診療所。 当時は、もう少し人がいたのに。 今じゃ、すっかり寂れてる。 「さあ、話をしようかな」うまい切り出しが浮かばなかったので、適当に 「三年前~」とかで始めるのであった。
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