チョコレートきす

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おとぎ話には毒リンゴを食べて倒れたり、与えられたご飯を食べなかったり、吉備団子を貰う代わりに仲間になったり…。 色々あるけど… 今私のいる場面はどれにも当てはまらない。 「さぁさ、早くしてしまいなさい。怖くはない怖くはない。痛くもなければ痒くもない。」 私の横にいるおばあさんは耳元で念仏の様に呟いた。 「…」 キッと口を一文字に締め、私は首を横に振った。 「おや、ならばよいのか?こやつはずっとこのまま、地面を這う事になるのだぞ?」 「それは、嫌。…彼に魔法をかけたのなら、解いてよ…」 「私は魔法のお手伝いをしたのみ…実際作って食べさせたのはあんたじゃよ…ヒッヒ。だから、あたしゃ無理なのさ」 私が、作った…。 そう、よ。作ったわ。 私は片思い中の彼にバレンタインチョコを作った。 昔聞いたおまじないをしながら作ったの。 彼の髪と、私の髪、新鮮な四つ葉のクローバーを入れるというもの。 そして、それを渡す方法は口移し。 チョコレート味のキスをして両想いになるの。 なんて、信じたのが馬鹿な私。 口移しでチョコレートを渡した後、彼は蛇になってしまった。 大蛇。 私が大嫌いな蛇。 大好きな彼が、大嫌いな蛇になってしまった…。 唯一解く方法は、もう一度キスをすること。 「どうするんだい?ヒッヒ」 おばあさんは大蛇をヒョイと担ぐと私に歩み寄った。 「いやっ!こないでっ!」 「おや、大好きな彼を拒否するか」 「か、彼じゃないっ!これは蛇よっ!!」 「そうかそうか。こいつは蛇なんだな」 「そうよっ!だから、あっち行って!!」 「ならばあんたが去りな」 おばあさんは地を這う声で言った。 「っ!!…え、えぇっ!!」 私はダッシュでその場を後にした。 「ヒッヒ、どうかね?」 「…うまくいったよ、おばあさん。」 「いいのさ、駄賃なら貰ったしねぇ」 おばあさんは白蛇を網かごに入れるとニコリと笑った。 「あんたも変な女に憑かれたね」 「えぇ。普段は祓えるのですが、女性は結構辛くって…。2月は特に…」 男は苦笑した。 「今回はありがとうございました」 「いやいや、またご用とあれば呼んでくださいな」 そういうとおばあさんは消えていった。 その後、男は人混みの中へと消えた。 バレンタインには注意ですよ、男性諸君。
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