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「潤君は人殺しをどう思う?」
沙柚は暗い顔で僕にそう質問してきた。
沙柚。その質問をするなら相手を間違ってる。僕に聞いたところで嫌な思いをするのはいつも君自身なんだと何故気づいてくれないのだろう。
「その質問は前にもしたぞ?」
「改めて聞きたくなったの」
殺人。それはこの世で一番重い罪である。
生を断ち、命を無くすモノ。
残酷に無慈悲に大胆に。
罪に罪を重ねに重ねた重罪人。
「なあ沙柚。こんな話を知ってるか?」
「え?」
「哲学の話になるんだけどね。牛や馬。ヤギでもいい。彼らは産まれたてにして本能で四本足で立つ。
そして走る。それは生きるために必要な事だ。彼らが積み重ねてきた生きる知恵と経験が産んだ物。
動物の神秘とも言っていいと思う」
だけど、と僕は言葉を繋げる。
「人間はどうだい?産まれてすぐに立つ事もできない。喋れないし、手を動かす事も食べ物を自分で食べる事もできない。
それは唯一この世界でただ一種。僕達人間だけなんだよ。何故だと思う?」
僕の長い話に頭を回転させるために沙柚は
自転車の動きを止めて立ち止まる。
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