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少し歩いた先に商店街がよりいっそう輝いているのが見える。
そこを二人で歩いていく。
「おや!これはお二人さんめでたいな!」
魚屋の前でガラガラとした声の主に冷やかされる。
「健(ケン)さん。そういう類のネタは沙柚は弱いからやめてあげてください」
沙柚はもはや声を出せぬほどに赤くなっている。
「硬いこというなよ。おい!島坊(シマボウ)」
名前を呼ばれて面倒臭そうにとなりの床屋から似た歳の男性が現れる。
「島坊言うなよ健さん。ってあれ。
お二人さんどした!」
「おお。俺の予想通りになっちまった!」
二人共僕達の手を握り合っているのを見て
テンションが上がっているようだった。
「島さんもやめてくださいってば」
すると沙柚が渾身の力で僕を引っ張る。
「って!沙柚!オマエどこにそんな力を!」
赤面で無言のまま速歩きでスタスタと
進んでいく。
笑いながら健さんと島さんは僕達を見送ってくれた。
二人共40歳のかなり人生の先輩に位置する方々だが、歳が若い僕達に気楽に話かけてくれる素晴らしい人達だ。
僕達のような「病人」とも普通に付き合ってくれる数少ない友達だ。
「沙柚!ストップだ!ロープ!ロープ!」
そう言いながら僕は店の前に置かれた立ち入り禁止のための鎖を握った。
「私はプロレスの選手じゃない!って……
あわわ!?ごめん!」
我に帰った沙柚は何があったかを覚えていなかった。
「私何してたのかな……」
「さあね」
僕は優しい嘘をつけることを知った。
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