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ちょっと遠出をしようと思い付いて、二人で雑誌を読んで車で出かけた。
美味しいものを食べて、観光地で写真を撮って、そういえばおばちゃんがオマケもしてくれたっけ。
「楽しかったねって喋って、高速道路でトラックが――」
「お前の恋人は無事だ、もう……大丈夫だ」
九郎が俯く彩香の肩を優しく叩く。震えていた彩香は小さく呟いた。
「伝言が、あるの」
彩香に見慣れた携帯電話が差し出された。白い、彩香の携帯電話だ。どうして、と乾いた唇が紡ぐ。
「俺にできるのはこのくらいだ」
携帯電話を受け取った彩香を確認して、九郎はポケットから古びた銀の懐中時計を取り出す。
「少しぐらいの不思議があったって神様は許してくれると思うがね」
なんだ、笑えるんじゃないと呟く前にまた視界が闇に落ちる。
今度は目を開けても視界は薄暗い。右手に硬い感触がしてなんとか手を顔の近くまで持ってくる。
「ケータイ……」
ゆっくりと着信履歴を出す。ほとんどが誠人、と表示されていて小さく笑った。
通話ボタンを押して、留守番電話に切り替わるまで待った。視界の半分は赤く、何かに挟まって動かない身体の感覚はほとんど無かった。
「……もしもし、彩香です――」
いままで素直に言えなかったけれど、伝えたいことがあるんだ。
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