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時は昭和――
満月の光に照らされた一室にベッドに横たわる老婆と、その老婆を取り囲むように三人の二十歳くらいの女と、同じく三人の二十歳くらいの男がいた。
「ばあちゃん・・・」
老婆はゆっくり口を開く。
「私は大丈夫だよ、ちょっと一人にしといてくれないかい?今日は月が綺麗でね、ゆっくり一人で見たいんだ。」
六人の若者は何回か老婆の方を振り返りながら部屋を出た。
老婆は顔を大きな窓へと向ける。
外には月夜の光に照らされ散り続ける桜の木があった。
老婆は満月を食い入るように見つめた。
すると老婆の穏やかだった表情はまるで何か恐ろしいものを見たかのように目を見開いた。
「あぁ・・・!あぁ!!そうだったの・・・!そうだったのね・・・」
老婆は目から涙をポタリ、ポタリと落とす。
「また、また会うことは無かったのですね・・・次こそは・・・次こそはまた・・・二人で・・・」
老婆は右手を満月におもいっきり伸ばした。
そのあとは外で鳴く虫たちのの声しかしなかった。
綺麗な綺麗な月の光の夜のことだった。
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