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この世界に生まれ落ちて、眼を開けた瞬間からそれらは見えていたように思う。感じるだけなら、それこそ母の胎内にいる時から。それらが何なのかを理解するまで、自分にとっては日常の、ありふれた光景の一つだった。
普通ではないと知ったのは5~6歳の頃。
痛みと共にその身に刻みつけられた。
「ねえ、お母さん」
愛らしい顔をした女の子が手をつなぐ母親を見上げる。
「なあに?」
「どうして吉田のおじちゃんは死んじゃうの?」
にこやかに娘を見下ろしていた母親の顔が強張る。娘が見ていたのは二軒隣に住む吉田という名の中年男性だ。四十代半ばだということだが、ずいぶんくたびれてみえる。二十五年連れ添った妻が他界し、子供達も遠くにいて一人暮らしになっていたため、何度か夕食のおすそわけに行ったこともあった。子供好きで、温和な彼を娘も慕っていたはずなのに。
「夕羅、どうしてそんなことを言うの! 死ぬなんて縁起でもない。一体誰がそんなことを……」
幼い頃からちょっと変わった子であることは感じていた。原因も分からず、突然泣き出したり、独り言を言ったり。自分の足で歩けるようになると、しょっちゅう一人で出歩くようになった。
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