第三章

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 第四談話室を出た四人は足早に、元来た道を戻っていく。真琴は泣き止んでいたが、翠に付き添われている。  信二は襟元を哲郎に掴まれて歩かされている。  ショックからは立ち直ったが、戻ることは許してくれそうにない。 「あのー……」  せめて手を離してくれないか、声をかけるも無視される。夕羅の弁護など聞いてくれないだろう。  大切な人の誤解一つ解けない自分を情けなく思いながら、図書館に出た。  常連客が何人か腰かけている。  戻ってきた信二達を見て広治の顔がほころぶが、尋常ではない様子に困ったような顔をした。 「ありがとうございました。代金、払います」  守が前に出る。 「いや、構わないよ。夕羅に聞かなかったかい? あの子を訪ねてくれる友達なら、いつでも歓迎するよ」 「しかし…」  渋る守に広治は柔和な笑顔を見せる。ささくれだった心が少しほぐれる。 「けっ、誰があんなやつの友達なんか…」  小声で悪態をついたのは哲郎。一応気を使っているらしい。 「哲郎! すみません、口が悪くて…」  守がたしなめるが、心の中では同じ思いを抱いていた。
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