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先ず最初に体が選択したのは逃走だった。
動けない筈の腕が即座に地面を突き放し、震えていた足は体を蹴り除ける。
後退る第一歩目から正確に地面を把握し、腰を落としたまま声のしたほうへと体が向いた。
「え、と、赤さ、か。くん?」
やや挙動不審気味に声を出したのは、学校で会う顔だった。
今時の流行なのか、赤い丸眼鏡に綺麗に揃えられたボブカット。美人さんである。
が、
「な、え、長野、さん? どうしてココに!?」
学校で風紀委員に所属している彼女は、基本厳しく、すでに結構な時間の今、遊ぶような人間ではないはずだ。
そんな彼女が、学生服でこの場にいるのは明らかに場違いで、どうしようもなく違和感だ。
「ちょ、そ、そんな声上げること!? 単に委員会の書類を片付けてただけよ!」
顔を赤くした彼女に逆に叫び返され、あ、なるほど、と妙に納得した自分。
尻餅をついたまま手を打つと、長野さんはジト目で、
「……私どれだけお堅いイメージなのかしら?」
「すいませんでした」
素直に土下座。女性を怒らせることなかれ。これは鉄の掟だ。
震えていた体は何処へやら。人の意思(トラウマ)は限界を超えるのである。
「いや、土下座されるほどのことでも……」
「じゃいいや」
服に付いた砂埃を手で叩き、立ち上がる。
膝下から力が抜けかけるが、そこは女子の前。奥歯を噛んでこらえた。
「……」
「ん?」
微妙に彼女の目つきが鋭い気がするが無視。
ここら辺は小粋なジョークとして受け取ってもらいたい。
まず無理だが。
……にしても。
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