第一章

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 馬鹿みたいに長い上り坂を上り、さらに下り坂で向かい風を顔面で受け止めつつ下ること、合計15分。  任務を完遂させようとした俺は、何とか右手に高級料理醤油、250ml、798円を提げて、左手に缶コーヒーを持って寛いでいた。  周囲にあるのは花を咲かせ始めた木々であり、既に夕闇へと包まれた空。  少々寂れた感じのある此処は、団地帰りにある丘の頂上、其処へ作られた普通の公園だ。  汗だくの体が発する熱気には、冷め始めた夜の冷気程度が丁度いい。  全力運動を15分も続けていたら体も疲れ、そこそこ鍛えているつもりの体は、既に疲れによりダラけている。 「あー……仕事帰りの一杯は身にしみる……」  実におっさん臭いな俺、まあいいや、と自己完結しながら、味の薄い缶コーヒーに無理やり舌鼓を打つ。  BESSと銘打たれたそのコーヒー。安っぽい残り味に少々顔を顰めながら、投げやりな態度でゴミ箱へと放る。  眼前に放った空き缶が綺麗に中へ入ったのを確認してから立ち上がる。  薄汚れたベンチに別れを告げ、軽く尻を叩いてから視線を前へと向けた。  既に家を出てから15分前後。これから帰り道をたどれば20分ギリギリだろうか。  とはいえ、そう急がずとも家には着く。焦らず行こうと軽い気持ちで愛車へと手を伸ばし、  ――凍りついた。
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