うたかた

2/8
前へ
/17ページ
次へ
  夜の帳(とばり)が街を覆う。新月の夜は暗く、街灯の無い街外れの廃墟は闇に包まれている。   その闇の中、周囲の闇より深く暗い闇が蠢(うごめ)く。目を凝らしてよく見ると、それは黒い獣のようだ。   一歩、また一歩と近づくその獣の体躯(たいく)はまるで豹のようだが、豹がこんなところにいるはずがない。 では、この獣は何か。 わからない。わからないが、頭のどこかで警鐘(けいしょう)が鳴る。危険だ、近づくな。ここから逃げろ、と。 しかし、意思に反して体が勝手に前へと足を踏み出す。獣へ近づくように。 目の前の獣は前足を伸ばして肩を低くし、重心を後ろへやった獣は、いつでも飛びかかれる体勢で威嚇するように低く唸った。 人間が相手なら問題はないのだが、獣を相手に闘う術(すべ)はない。このまま襲われたらひとたまりもない。本当なら今すぐここを離れなければならないし、そう思っているのだが、体は勝手に獣へ近づいていく。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加