うたかた

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  景色が一転する。   しとしとと雨が降る薄明かりの廃墟。見上げれば、満月が地を照らしている。今まで立っていたはずの体は廃墟の壁を背に座っていて、心なしか空が遠い。     ああ、これは夢なのだ。     現実だと錯覚(さっかく)するほどにリアルだが、景色が変わったことでそう確信した。   風が吹く。しとどに濡れた服は冷たく、容赦なく体温を奪う。体がひどく重い。   ふと違和感を覚えて腹部に手をやると、ぬるりとやや粘着質なものが触れた。のろのろと手を掲げて見てみると、手のひらにべったりと血がついている。   自分は怪我をしているのか。腹部に目をやると、衣服が血で滲んでいた。雨が溢れる血を洗い流しているため、破れた衣服からは傷口が明瞭(めいりょう)に見える。鋭い刃物で貫かれたような深い傷だ。   夢だというのに、傷を負っていると認識した途端、思い出したかのようにずきずきと痛みだした。   痛みのせいか、それともひどい出血で貧血を起こしているのか、どちらかはわからないが視界がかすむ。   目を瞬(またた)かせ、ふと気づいた。身に着けている衣服が、普段着ているのものとは違う。自分はいつもジーンズを穿いているのに、目に映るのはスラックスだ。よく見ると、ワイシャツにベスト、そしてフロックコートを着ている。   やはり、この体は自分のものではないのだ。では何故、寒さや痛みを感じるのか。それはわからないが、この体と自分の意識がシンクロしているのだろうかと漠然と思う。
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