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少しずつ雨に流されていく手のひらの血をぼんやりと見つめながら、この体の持ち主は死ぬんだなと思う。
同情はない。
しかし、この激しい痛みと耐え難(がた)い寒さの中でただひとり死んでいくというのは、なんと寂しいことだろう。
状況からして他殺であることは間違いないのだが、いったい何故殺されたのだろう。この体の持ち主は、何を思い死んでいったのか。
そんなことを思っていると、意識が朦朧(もうろう)としてきた。激痛によるものなのか、それとも夢から覚めようとしているのかはわからないが、無理やりに意識の底へと引きずり落とされているような感覚がひどく不快だ。
目の前が真っ暗になった。目を開けているのかどうかもわからず、妙な浮遊感を感じ始めた頃、声が聞こえた。
自分を呼ぶ声だ。
柔らかな声音(こわね)が鼓膜を震わせ、意識をも覚醒(かくせい)させていく。
閉じていたらしい瞼(まぶた)をゆるゆると押し上げると、視界が徐々に光を取り戻していく。いつの間にか、痛みも寒さも感じなくなっていた。不思議に思いながらぼんやりと目を開いていると、目の前の景色がまた違っていた。
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