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視界いっぱいに広がる文字の羅列(られつ)。それは景色といえたものではないが、そうと認識する前に覚えのあるにおいを嗅いだ。
「う…」
小さく身じろぎをして身を起こす。どうやら机に突っ伏して寝ていたようだ。視界に広がった文字の羅列は、寝る直前まで読んでいた古い新聞。覚えのあるにおいはインクのにおいだと判明した。
ゆっくりと周りを見渡してみると、図書館の中だった。
ああ、夢から覚めたのか。
そう思ったのもつかの間。異常に気づいた。
電気は明々(あかあか)と点いているはずなのにどこか薄暗く、しんとしている。図書館が静かなのは当たり前なのだが、足音も本のページを繰(く)る音も聞こえない。
「…なんで誰もいねぇんだ…?」
そう、誰もいないのだ。本を借りに来る客はおろか、カウンターの中にいるはずの司書たちもいない。自分以外の人の気配のしない図書館は不気味で、自分の呼吸音がはっきりと聞こえるほどに図書館は静寂に包まれている。
「まだ、夢なのか…?」
呟く。
が、夢ではないと直感が訴える。
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