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ではこれは現実かと問われれば、そうだと断言する自信はないが。
なんとなく思うのは、現実であって現実でない、そんな不思議な感覚をもたらす空間にいるのだろうということ。夢と現実の間(はざま)。そんな言葉が頭をよぎる。
「ふぅん…ほんと、察しの良い人ねぇ」
「ッ!」
不意に、すぐそばで声が響いた。柔らかな印象を受ける女の声だ。
さすがに驚いたアキラは、弾かれたようにあたりを見回す。しかし、誰もいない。
誰もいないのだが、クスクスというかすかな笑い声が聞こえる。ひとりのものであるはずのそれは徐々に図書館中に反響し、まるでさざめきのようだ。おかげで、どこから声がしているのかわからない。
「どこを見てるの?」
前方から声がした。めぐらせていた首をすばやく前へ戻す。しかし、やはり誰もいない。
「そっちじゃないわ」
今度は後ろ。ちらりと肩越しに振り返るが、見えるのはただ本棚のみ。
声はすれど姿は見えず。左方や右方、頭上など、あちこちへ声が移動していく。
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