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風が吹き抜ける。
空気をはらんだ髪が揺れた。
冬の冴え冴えとした冷たい空気が傷にしみてぴりぴりと痛む。
切れた唇の血を乱暴に拭(ぬぐ)い、売られた喧嘩を何でも買うのはやめようと、アキラは心で呟いた。
乱れて艶を失った黒髪を気だるげに掻き上げながら、ふと視線を道の先へやり、歩みを少しだけ緩めた。
こんな町外れの廃(すた)れた場所に、月明かりを弾く見事な金髪の青年が、半壊して腰あたりまでしかない建物の壁に腰掛けて空を見上げている。
その横顔は端整で、男の自分でさえ見入ってしまうほど。
どう見てもこんな場所には不釣り合いで、いっそ潔(いさぎよ)いくらいに浮いている。
青年は近づいてくるアキラに気づいたようで、空から彼に視線を移してにこりと微笑んだ。
「こんなとこで何してんだ?」
言葉が通じるかどうかを考えるより先に、言葉が口をついて出た。
青年はどきりとするほど魅惑的な笑みを浮かべ、唄うように言葉を紡(つむ)ぐ。
「ああ、やっと見つけた…」
少し低めの甘い声音で返ってきたこの言葉を、アキラはもちろん理解出来なかった。
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