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知り合いに金髪の青年なんていただろうか。一呼吸ほどの時間、思い出そうとしてみるが、金髪の知り合いなんて思い当たらない。
「……ああ、誰か待ってんのか。悪いけど人違いだ。じゃあ」
思い当たる人物がいないとなると、目の前のこの青年は自分と誰かを間違えているのだ。
こんな薄明かりの中では間違えてもおかしくはない。ましてや青年のようにここでは珍しい金髪ではなく、アキラはごく普通の黒髪だ。身なりだってごく普通で、似たような服装ならいくらでもいるだろう。
「いいや、違う。見間違いなんかじゃない。僕は君を探していたんだから」
だが、青年は通り過ぎようとしたアキラの腕を掴んで止めた。
瞬間、ひやりとした。掴まれた腕がぞくりと粟(あわ)立つ。冷たい空気に冷えた手。そう言うには不自然に鼓動が跳ねた。
「君を…いや、君のような人を探していた」
「…何の勧誘か知らねえけど、他を当たってくれ」
「勧誘?ああ、たしかに勧誘と言うのかもしれない。だけど、君以外はいらない」
まるで女を口説いているみたいだと思った。奇妙ではあるが、不思議と不快ではない。
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