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その言葉を聞いたリュウセイは、バックミラーを見た。だがそこに映るのは、後ろを走る車と、こちらを指さすノム。なんの変哲もない状況に、リュウセイは少し笑った。
「はは、何だよ。なんもねえじゃねえかよ!?」
だがノムの開いた口は塞がらない。
「ち、違う……自分の顔……見てみろよ……」
そう言われたリュウセイは、バックミラーを自分に向けた。当然そこには、見慣れた自分の顔が映っているはず。しかしそこに映っていたのは、明らかに人間の顔とはかけ離れているものだった。口の上から左右1本ずつ太い毛が生え、頬にはエメラルドグリーンの鱗ができているのである。それを見たリュウセイは止まった。
「え……な、なんだよこれ……き、気持ちわりい……」
「バカ!! 前見ろ!!」
ノムは道路から目を離したリュウセイに、大きな声で注意した。なぜならワゴン車の前を、金髪の派手な男が歩いていたからである。
キキィー ……
とっさにブレーキを踏んだリュウセイ。するとノムはやけに冷静な口調で、リュウセイにこう言った。
「なぁ、その身体、まずくねえか?」
そう、ブレーキを踏む時に力を入れたリュウセイの身体は、まるであの伝説の生物“龍”のような姿になってしまっていたのだ。するとそんな状況にも関わらず、道路を横断していた男が、危険な運転をしたワゴン車にゆっくりと近づいてきた。それに気づいたノムはとても焦った様子。
「おいリュウセイ! 引かれかけた男が近づいてきたぞ! やべえ、どうすんだ!?」
その言葉と自分の姿に、リュウセイも焦る。
「嘘だろ!?状況が把握できねえ! なんだこれ!? どうすりゃいいんだよ!
あ、やばい、来た! もうダメだ。こりゃ大変なことになるな……」
何も出来ないリュウセイは、目をつむり、ため息を吐いた……
「やいやいやい!! 何してんだよあんちゃん。俺が見えなかったか?ああ!?」
金髪の男はズボンのポケットに手を突っ込んで、運転席のガラスにデコを押し付けながら文句を言っている。だがリュウセイの姿を見ても驚くことなく文句を言う男に、リュウセイ、ノムの目は点になった。
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