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嘆息をこらえ
「それは厄介ですね」
とサンスロは小心者の上司に調子を合わせた。
もっとも、ガルデロ卿が小心者である事だけが、ダーレン教の主要な枢機卿の一人である彼を慎重にさせているのではないことはサンスロにも分かっていた。
ダーレン教は今や死に体なのだ。特に大陸の北側ではいなか坊主がダーレン教の原理に還れ、という運動を始めており、その運動は日増しに勢いを増している。
そこに、人気のあるアンフェル卿を根拠も無しに異端告発しようものなら……。それ故のガルデロ卿の言い訳めいた言葉なのだ。
サンスロの頭脳がその答えを導くのを待っていたかのようにガルデロ卿が思いもよらない命令をサンスロに下した。
「そこで、君にはアンフェル卿を探ってもらいたい」
「正気ですか?」
「時期も相手も悪すぎるのだ」
そういえば、あのいなか坊主が明らかにしたのは北方都市の聖職者の堕落だったな。
それに呼応してこちらでも過激な思想家が聖職者を糾弾する声明をサンスロの過ごす宗教都市マンサに貼り出した去年の夏の出来事はまだ忘れられていないだろう。
しかしーー。
それは結局同じことなのではないか。非難する者は何をしても非難する。それに気を配っていても仕方がない。それよりは毅然とした態度をとるべきなのではないか。
「やってくれるな?」
そうサンスロは感じていても、それを口には出さなかった。上司のガルデロ卿がサンスロに内偵を命じたのであれば、それに従う他ない。
「こころえました」
それが、秋の始まりのある日の出来事だった。
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