8216人が本棚に入れています
本棚に追加
瞬きしても、変わらずクリアなままの視界には、未だ絶えない笑顔が微笑ましく映っていた。
「あの……」
先生の柔らかな声の残響は、耳の中に響く自身の声よりもはっきりとしている気がする。
にこにこと私を見つめてくる瞳は、何も言わず回答を待ち構えているように見えた。
先生の言葉が、確かに私に向けられたものだったと認識すると、今度はその真偽を吟味する。
「それは……」
……本気なのかもしれないと受け取るのは、自惚れ。
……軽い言葉だとすると、それにはやはり落胆してしまう。
本田先生の綺麗過ぎる瞳に見つめられ続けていると、全身の血流が上へ上と上昇してきた。
さっさと返事をしてしまえばいいものを、金魚の如く間抜けに開いた口は、数度に分けて大した意味を持たない言葉を呟いただけだ。
この戸惑いは、似合わない軟派な台詞を吐いた本田先生には、イメージ通りに硬派で居て欲しかったという、私の身勝手なエゴが打ち砕かれた所為……
そして、それに同期して、私の頬が上気し出しているのは……先生の言葉を、少なからず真に受けてしまっているからだ。
「えと……」
だけど、その言葉の真意がなんであれ、私が出す答えは決まっている。
そもそも、最初から吟味する必要なんてあるわけがないのだ。
だって私には、タツキが……
「……」
タツキ、が……?
最初のコメントを投稿しよう!