17/21
前へ
/673ページ
次へ
「ん?」 相変わらずの笑顔のまま、ゆったりと小首を傾げる本田先生。 ……思わず、思い出し嘲笑(わら)いしてしまうところだった。 緩みそうになる口許を、きゅ、と引き締める。 いつまで“そのつもり”でいるんだろう。 これも、“義務感”からだろうか。 さっき、自分の“想い”を確信したばかりなのに。 先生を前に速まっていた筈の血流が、一気に急減速する。 微かな瞳の乾きに気付くと、速くもなく遅くもない瞬きで、自分の心に余裕を持たせる。 ……もう、居ないようなものだ。 だったら…… まだ、ほんの少しだけ血流の影響を受けた熱さが残る頬の緊張を緩め、ゆったりとした先生の空気に馴染むように口角を上げた。 「……いいですよ。私はいつでも」 先生には負けるかもしれないけれど、出来るだけ精一杯の笑顔を浮かべてみせる。 笑顔と言っても、今の私の状態で造り上げられたものは、世間一般では“自棄”と呼ばれる括りのものだ。 胡散臭さを微塵も感じさせず、内から出るオーラで構成される先生の柔和な笑顔とは程遠い。 この回答を、冗談返しと取られても、本気と取られても、私は特段困る事はない。 どちらに取られても、本田先生に恥を掻かせる事だけはないのだ。 「あ、……」 一瞬だけ、柔らかさが消えた表情から、恐らく回答への是非が述べられようとしたところで、私の背後から景気の好いノックの音が割り込んできた。
/673ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8216人が本棚に入れています
本棚に追加