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そんな私の私情なんて関係ない。 ここは素直に退室するのが礼儀だ。 先ほどの返答もあやふやなまま、「お願いします」と課題を託し、その学生と入れ替わる。 真横を通り過ぎる寸前に、ふんわりと仄かな香りが鼻を掠めた。 確か、湯上り風の香りは男性に好まれる、と何かの雑誌で読んだ気がする。 下心の見え隠れする一見上品そうな香りに、本田先生も眩んだりするのだろうか。 それなりの上品さと相反する強気な眼差しは、私の右半身をバシバシと刺してくる。 敢えてその強かさには目線を送らずに、「失礼しました」と扉の外へと出て行った。 室内のやんわりとした空気が、パタリと閉まる扉によって遮断される。 廊下のひっそりとした空気は、先生の柔らかい雰囲気の名残すらも溶け込んでしまうほどに無機質だ。 あの綺麗な瞳に魅せられた動悸もすっかり影を潜め、不意に襲う妙な虚無感に小さく息を零す。 食事に誘われたという事実はあるものの、それが冗談だったのか、それとも本気だったのか、結局きちんとした回答は得られなかった。 「先生ぇ、これなんですけどー……」 入れ替わった女の子の撫で声が、自棄に耳に付く。 もし、あの子が押し入ってこなければ、先生はどうするつもりだったんだろう。
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