8209人が本棚に入れています
本棚に追加
/673ページ
微かな苛立ちを覚えるのは、“嫉妬”などという感情ではない。
硬派だった先生のイメージが、先ほどのような“誘う”発言によって、簡単に崩されてしまったから……
「……」
……いや、少し違うか。
その理想と違っていたところで、それは私が勝手に失望しているだけ。
先生を相手に苛立つ事自体が間違ってる。
よくヒカリに連れられ、先生と話をしていたけれど、本田先生は余り私情を話したがらなかった。
繰り出される質問に、相槌を打つだけの先生に対して、勝手に硬派なイメージを造り上げていたのは私だ。
結局のところ、私はあらゆる“原因”を他人に押し付けている。
それに気付くと、微かな苛立ちがこれまで噛み殺していた嘲笑に変わり、やっと口許から零れ落ちる。
……ここでも私は、自分を擁護しているんだ。
またしても不意に過ぎる虚無感。
これは、……先生の言葉を僅かにでも真に受けてしまった自分が、酷く滑稽だったから。
タツキの部屋の前で立ち尽くしたあの瞬間と、似てる気がする。
私だけが独りで静かに騒ぎ立て、私だけが独りで勝手に落胆してる。
全部が自分勝手な空回り。
それが、酷く虚しい。
.
最初のコメントを投稿しよう!