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微かな苛立ちを覚えるのは、“嫉妬”などという感情ではない。 硬派だった先生のイメージが、先ほどのような“誘う”発言によって、簡単に崩されてしまったから…… 「……」 ……いや、少し違うか。 その理想と違っていたところで、それは私が勝手に失望しているだけ。 先生を相手に苛立つ事自体が間違ってる。 よくヒカリに連れられ、先生と話をしていたけれど、本田先生は余り私情を話したがらなかった。 繰り出される質問に、相槌を打つだけの先生に対して、勝手に硬派なイメージを造り上げていたのは私だ。 結局のところ、私はあらゆる“原因”を他人に押し付けている。 それに気付くと、微かな苛立ちがこれまで噛み殺していた嘲笑に変わり、やっと口許から零れ落ちる。 ……ここでも私は、自分を擁護しているんだ。 またしても不意に過ぎる虚無感。 これは、……先生の言葉を僅かにでも真に受けてしまった自分が、酷く滑稽だったから。 タツキの部屋の前で立ち尽くしたあの瞬間と、似てる気がする。 私だけが独りで静かに騒ぎ立て、私だけが独りで勝手に落胆してる。 全部が自分勝手な空回り。 それが、酷く虚しい。 .
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