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「ごめんね、折角のデート前に暗い話しちゃって」 「ううんっ、あたしのことなんて……」 尻すぼみな声で、艶々のショートボブを振り乱すマナ。 当事者の私とは対照的に、まるで自分のことのように胸を痛めてくれる。 そんなマナをこうやって哀しませていることが、今、唯一あとを引いていることだ。 「マナは? 彼とは上手くいってる?」 「う、うん……」 「これからデートだもんね、当たり前か」 「……」 うるうると震える睫に、振り乱された髪が器用に数本掛かり、それを見ている私の目までちくちくしてきそうだ。 「マナ、髪が」 くす、と笑みを零すと、自分の乱れた現状よりも、私の心を気遣うマナを前にして笑うのは、少し不謹慎だったかなと反省する。 私の指摘で気付いたマナが、サイドの髪を手櫛で雑に梳くと、どこからか雰囲気に合わない軽快な歌が篭って聴こえた。 「あ、ごめん。あたし……」 四人掛けテーブルの隣の椅子にあるバッグを漁り、マナは慌ててその歌を停止させた。 「もしもし、……うん、中に居る」 「……」 恐らく、本来の予定であった彼と落ち合う電話なのだろう。 マナは周りに気遣って……いや、私に気遣って、極力ボリュームを落とした声で応答している。 そこから視線を下ろし、グラスに刺さったストローで、アイスティーに浮かぶ氷をくるりと一掻きした。
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