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久しぶりに見た彼は、マナの好みそうなベビーフェイスに愛らしい笑顔を浮かべている。
間近に迫ってきた長身の彼を見上げ、まずは挨拶代わりに軽く笑みを返した。
「こんにちは、明菜さん。久しぶりですね」
「ほんと、久しぶり。春以来だね」
去年の夏に合コンで知り合ったらしいショウくんとは、マナを通じて幾度となく顔を合わせていた。
年下とは思えないくらいしっかりしてて、長期の交際歴が無いマナからすると、一年近くも一緒に居る彼とは、相当ウマが合っているんだろうと思う。
私達の挨拶を神妙に見守るマナは、通路側の席から隣の椅子に移動し、ショウくんの座るスペースを確保する。
極自然にそこに腰掛けるショウくんに向かって、マナは徐に口を開いた。
「ショウ。……あたし今日、明菜と飲むことにしたから」
「えっ」と、デートのドタキャンを言い渡されたショウくんの声と、今初めて知った今日の予定に驚いた私の声とが重なった。
「マ、マナ……折角ショウくんが……」
「飲むの、飲みたいのっ」
まるで駄々っ子のように、折角手櫛で梳いた髪を再度振り乱すマナ。
どちらかと言うと、自棄酒に走らなければいけないのは私の方なのに、気落ちしていない私の代わりに、マナがその憂さを晴らそうとしてくれる。
マナのそんな優しい思いと、マナ無しではありえなかったタツキとの始まりが不意に胸を掠め、それまで穏やかだった心がじんと切なくなった。
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