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一人でも多い方が楽しいだろうと思ったのは本当だったから、送って貰う云々に拘わらず、ショウくんの申し出は快く受けた。 「さっき別れたばっかだから、まだその辺に居る筈」と携帯を取り出し、早速呼び出しが掛けられる。 ようやく解放された頬を摺りながら、ショウくんの同行に対しての謝罪をするマナに、私の為を思ってくれてるからこそのマナの発案とショウくんの気遣いに、感謝の意を伝えた。 正直なところ、初めて会う男の子とお酒の席を共にする事に、抵抗が無いわけではなかった。 でもそれは、“彼氏”という存在が在ってこその抵抗感。 事実、私には男の子と飲みに行く事に対して咎める人は、もう居ない。 一瞬だけ過ぎった抵抗感は、長年当然のように背負っていた“タツキの彼女”という肩書きの名残の所為。 そして、今ここで過ぎった抵抗感に抗い快諾したのは、先日、本田先生の台詞にすんなりと応じようとした“自棄”と似たような感覚の所為でもあった。 ショウくんの頼んだコーヒーが飲み干された頃、先ほどと同じドアベルの軽やかな音が、店内を転がり私達の元へと届いた。 全く同じ動作で目の前の二人が振り向く。 その向こう側で、若い男性が一人、入り口付近でぐるりと店内を見渡していた。
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