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「悟流っ」 ショウくんが声量を上げ、入り口前に佇む彼に手招きをする。 マナも『さとる』と呼ばれた彼に手を振っているところを見ると、既に顔見知りである事が窺える。 ショウくんの声に反応した横顔は、見知った顔に一息ついた表情で、身体ごとこちらに向き直った。 流行に流されない細身のパンツスタイルは、全く厭味にならず、彼の容姿の魅力を存分に引き出しているようだ。 こちらから一度視線を外し、俯き加減で長い足を進める彼は、ほんの少しだけあどけなさを残しているものの、それでも取り巻く雰囲気は、随分と大人びたように穏やかだ。 私達が囲むテーブルに到着した彼は、笑顔を振り撒いているわけではないのに、さらさらの黒髪から覗く少しだけ下げられた目尻に、ふわりとした柔らかさが感じられる。 「これ、オレの舎弟、悟流。可愛いでしょ」 「先輩、可愛いっての余計です」 ショウくんの直ぐ横から私の耳に届く声は、彼の穏やかな雰囲気に見合った、とても柔らかい声だ。 『先輩』……ということは、やっぱりショウくんより年下なんだ。 一年生、くらい? 紹介を受けて、初めて私に向けられた瞳には、綺麗な黒の輝きが込められていた。 「初めまして」 その綺麗な黒の瞳に捕らえられると、不意に何かが脳裏を掠めた。
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