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* 「だいたいねぇ、あきながひくことなんてなかったんだよぉ。ほんさいはこっちだったんだから、そのひかりってこもさぁ……」 がやがやというか、もう騒音の域に達するレベルの店内の騒がしさに、呂律の怪しくなったマナの言葉は、辛うじて聞き取れるほどのものでしかなかった。 個室というわけではないけれど、テーブル同士の間には天井まで届く仕切りがあり、一応プライバシーは保たれている。 とは言っても、通路側に壁はなく暖簾で目隠しされている程度だったから、全ての客席の声は筒抜けだ。 離れていると思われる場所から聴こえる一気飲みを煽る盛大な歓声に触発されたのか、マナがテーブル間近に迫った顔面を突然振り上げた。 「あたしもいっきする」 「わ、馬鹿っ。もう駄目にきまってるだろっ。どんだけ飲んだと思ってんだよっ」 窘めるショウくんに、きいっ、と唸るマナを隣にして、頬杖を付きグラスを持った自分の手元を見つめる。 少しふらつく思考で、底に溜まった水に浸かる氷を、意味もなくくらくらと滑らせた。 この居酒屋に到着直後、御通しを前にした瞬間から、マナは私の代わりに愚痴を吐きっ放しだった。 マナが見てきた私の想いの足跡を振り返り、それを蔑ろにするようなタツキに対する憤りを、マナは一生懸命に代弁してくれた。
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