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「あきなさん、1時間くらい眠ってましたよ。器用に、椅子に座ったまま」 くすりと笑いを含み柔らかく発せられた声を、視界で辿ろうと顔を上げると、私の直ぐ傍にその主を見つけた。 間近に見える黒の瞳は、さらっとした前髪のかかる向こう側でふわりと細められている。 「って言っても、あんまりにも危なっかしかったから、隣に移動させて貰いましたけど」 「……」 言い終わったところで、腰辺りにきゅっと力が込められる感触に、視線を落とした。 それが、直ぐ隣に居るさとるくんの手によって私の腰が引き寄せられている感覚だという事に気付くと、心臓からドキンッとけたたましい音が一つ聴こえた。 「っ!!」 瞬間的に間近の彼から仰け反り、密着していたらしい身体を遠ざけようと身を引くと、身体全体がふらっとした感覚に見舞われる。 すかさず、腰の手の感覚がさらに強みを増し、「あぶな……」と零される声と同時に、腰から引き寄せられた反動で、身体が彼の方へと思い切り倒れ込んだ。 「……」 「……」 ドク、ドク、と脈打つ心臓は、アルコールの所為なのか椅子から落ちそうになった恐怖からか、それとも…… 「……すみません。椅子から落ちないようにって、支えさせて貰ってたんですけど、ちょっと慣れ慣れしかったですね」 申し訳なさそうな声は、声帯の振動と共に彼の胸元から直接伝わってくる。 両手で彼の両腕のシャツを握り締め、倒れ込んだ場所からは、ふわりと優しい香りがした。
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