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急に頭を振り上げた所為で、落ち着いてきていた揺らめきが再び戻ってくる。 「そんな、ことない……」 瞬きも出来ないほどに緊張し、血流の集中するこめかみはどくどくと眩暈を伴う痛みを誘ってきた。 「だったら……どうして今日、彼のことを一度も否定しなかったんですか?」 「……」 「話聞いてて、ずっと引っ掛かってたんですよ。確かに、マナさんがあなたの気持ちを代弁するように、彼氏への不満をずっと言ってくれてましたけど……」 「……」 「あなたはそこに便乗するどころか、それを肯定する相槌すら打たなかった」 『全然大丈夫じゃないでしょう?』 ついさっき、さとるくんが言った言葉。 私の現状を心配してくれている言葉だったんだろうけど…… それに不覚にも動揺してしまったのは…… 私の心を見透かし、誰にも気付かれることのなかった深層を掘り起こして、……そこを指摘されたような気がしたからだ。 「そんな、深い意味なんて……」 「じゃあ、行きましょう。最終にはまだ間に合う」 「……いい……、行かない……」 黒の瞳に捕らえられ瞬きも許されない視界は、揺らめきに加えて滲みが入る。 そこに追い討ちを掛けるさとるくんは、やはり私の深層まで手を伸ばしてきた。 「どうしてですか?」 「……」 「彼と鉢合わせするからですか?」 「……」 「だったら別の車両に乗りましょう」 「……駄目。降りる駅……同じだもの……」 ああ…… 曝け出すつもりなんてなかったのに……理由を肯定してしまった。
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