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. 「ほら、本田先生。ぜーったい明菜のこと見てるって」 「そんなわけないよ。たまたまだって……」 うちのキャンパスのカフェテリアは、小洒落た雰囲気を持ち合わせている為、併設されている年季の入った食堂よりも、圧倒的に利用者が多い。 コアなファンも居るらしいが、今時の若者からはウケ難いその食堂も、間もなく店じまいとの噂だ。 大学に入り、何かと同じ講義を取っていたヒカリから話し掛けられたのがきっかけで、よくこのカフェで昼食を共にすることがあった。 心地の好いそよ風に撫ぜられる席から入り口付近を見遣ると、確かに細身のスーツのシルエットが綺麗な本田先生が居た。 先生は声を掛けられたのだろう。 私が目線を向けたときには、巻き髪を揺らす笑顔の上手な女の子に振り向いていた。 この位置からは、いつもの眼鏡も、柔らかく細められる瞳も、さらさらな黒髪の後頭部に隠れて、見ることが出来ない。 先生が本当に私を見ていたのなら、多分、理由はあれだ…… まだコーヒーの入ったストローの刺さるカップをそっとテーブルに下ろし、気付かれない程度に溜め息を吐く。 清々しい気候も食欲を増進してくれるはずだったのに、最近はめっきりサラダとコーヒーしか受け付けない。
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