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黒の瞳からふっと強さが消えると、さとるくんは小さく息を吐き出した。
「やっぱり……、まだ好きなんじゃないですか」
「……」
「見たくなかったんでしょう? 彼が他の子と寄り添ってる姿も、……自分が見限られた現実も」
私の心は、黒の瞳にしっかりと見透かされていた。
「全然、……そんなんじゃ、ない……」
「いや、多分当たってますよ」
「なん……」
「……で、そんな事分かるのか、でしょう?」
「……」
「あなたと同じ、好きな人を引き止められずに、ずっと後悔し続けてる人を知ってるからですよ」
「……」
外せない視線の先の瞳が、ほんの少しだけ淋しそうに揺らめいた気がする。
それは……さとるくん自身の事、なんだろうか……
ショウくんが『最近落ちてる』と言った理由は、そこから来てるのかもしれない。
だから、私の心も……
視界がぼやけ、黒の瞳の輪郭もはっきりとは把握出来なくなった頃、……駅構内から鼓膜を不快に揺さぶる電子的な高いベルの音が聴こえた。
軽い頭痛に加え、耳から脳にかけて走るギンとした不快音につい眉を寄せ、やっと瞬きを再開させる。
瞬きのお陰で随分と視界がクリアになると、私をじっと見据えていたさとるくんが少し眉を下げた。
「あー……、間に合いませんでしたね、最終」
諦めた微笑みとふっと吐かれた小さな吐息に、私の駄々でさとるくんの厚意が全て無駄になってしまった事を、酷く後悔した。
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