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電車の重い車体が地響きを伝えるように、高架を揺さぶりながら遠ざかって行く。
その音を頭上に受けながら、
「……ごめん、なさい……」
と小さく呟いた。
「いいですよ」
迷惑を掛ける私を咎めるでもなく、柔らかく笑みを浮かべるさとるくんに謝るしかない私は、もう一度「ごめんなさい」と口にした。
何度も謝る私の声は届かなかったのか、それとも敢えて流してくれたのか、さとるくんは私に優しく問い掛ける。
「どうしましょうか。一応先輩がさっきの代金全部出してくれたんで、持ち合わせ余ってるんですけど……」
あ、私、居酒屋の代金……一銭も払ってない……
周りに迷惑を掛けまくる自分にほとほと呆れながら、今度マナに自分の分の代金を預けないと、と脳内のメモに書き記す。
不甲斐ない自分に反省し項垂れると、腰を、く、と引かれる感覚にいまださとるくんに抱き寄せられていることを思い出した。
その感覚に慣れたのか麻痺したのか、一度外した視線を躊躇いなくゆっくり上げると、
「どこか、……泊まりますか?」
意味不明な言葉を発する黒の瞳に、再度捕らえられる。
「……」
「……」
と、……ま?
どうやら私の思考も感覚も、麻痺しているらしい。
……意味が、よくわからない。
先ほどまで柔らかく微笑んでいた瞳は、今はなぜだか揺らぐことなく、……真っ直ぐに私を見つめていた。
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