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「ありがとう……」
「いえ。……靴、脱げますか?」
「……うん……」
なんとか辿り着いた自宅マンションの玄関。
パンプスのストラップに手を掛け、足元のふらつく私を庇いさとるくんが全体重を支えてくれている。
そんなに飲んだつもりなかったのに……
マンションに横付けされたタクシーから足を降ろし、立ち上がろうとした私は、自分が思っている以上に力の入らなかった足によろめき、
先に降りていたさとるくんに手を取られていなければ、その場に崩れ落ちるところだった。
そこまで送り届けて貰えれば充分だったのに、そんな私を見兼ねたさとるくんは、
『部屋まで送ります』
と、結局4階の部屋まで付き添ってくれた。
……なんてみっともないことしてるんだろう。
意識はあるものの、今日初めて会った人に泥酔の一歩手前の醜態を晒し、
挙句一人暮らしの部屋に無防備に男の人を踏み込ませるなんて……危険極まりない。
でもショウくんが、『無害な男』って言ってたし……
と思うのは、都合良すぎる言い訳だ。
裸足で降り立った玄関から、一段だけ高くなっているフローリングに足を上げる。
普段なら、軽く足を上げれば辿り着く床が、なぜだか今日は遥か遠くに感じた。
いつもの感覚で上げたつもりの足が、見事に踏み場を外し、さとるくんの手から離れようとした身体は、またしてもバランスを崩す。
崩れ落ちながら、自己防衛の機能を働かせることが出来ない自分の身体は、
……倒れ込む衝撃を感じることなく、力強い腕に引き寄せられた。
「流石にこれ以上は、と思ったんですけど……すみません、お邪魔しますね」
さとるくんがそう言った次の瞬間に、私の身体はふわりと宙に浮いた。
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