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「わか、らなかったの……彼に対して、どう接することが正解だったのか……」
私と距離を取ったさとるくんのシルエットの方へと顔を向ける。
暗闇で見えないことは分かっていたけれど、もう一度その黒の瞳で……私の心に触れて欲しかった。
目元を撫でてくれた温かな指は、その背で私の頬に掛かる髪をそっと払う。
「我儘を言えば、呆れられるんじゃないかって……嫌われるかもしれないって……」
こめかみの触れる枕に、ぱた、と微かな音を聴くと、また彼の指が私の目元にそっと触れてきた。
「……すき、だったから……彼にとっていい女で居ようって思ってて……」
「……」
「でも、それが逆効果だったみたいで……」
「女の人は、……こうやって泣いてる方が可愛いときもあるんだよ」
「……!……」
優しく私に触れてくれる指に、酷く胸が締め付けられた。
それによって搾り出されるものが、自分の目から溢れているのが分かる。
「意地を張っていい女を気取られるより、我儘に自分を求めてくれる方が……ずっと可愛い」
「……」
やっぱり……今は見えないその黒の瞳は、私の心に直接触れてきて、そして優しく労わってくれる。
止まりそうにない涙を拭い続けてくれる温かい指を絡め取り、その優しい掌を両手でぎゅっと握り締めた。
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