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私の誘導に抵抗しない掌に、自分の手越しに頬擦りをする。
「俺は、こうやって俺の手に甘えてくれる女性の方が、いい」
さとるくんの柔らかい声が、私の縛りを解す。
本当だったら、こうやるべき相手は……タツキだったんだ……
「彼も、そんな風に思ってたんだったら……素直に気持ち、伝えればよかった……」
……今更気付いても、遅いけれど。
これまで抑制してきた“後悔”の気持ちを、初めて吐露する。
「後悔し続けるだけじゃなくて、それを無駄にしない幸せを見つけてください」
暗闇に溶けて見えないのさとるくんの瞳が、少しだけ見えたような気がした。
「彼との出逢いも別れも、あなたにとって必要なことだったんだ」
「……」
空いた方の手がゆっくりと頭を撫でてくれると、その心地好さに、次第に瞳の水分の飽和も落ち着いていく。
「あなたには、きっと……もっと素敵な男性が現れますよ」
「……」
今まで働いてこなかった涙腺の久々の活動に疲れた瞼が、究極に休息を求める。
「……さとる、くんみたいな、人が……い……」
身体の活動が限界を超えようとしたところで、辛うじて開いた口唇は、遠退く意識の中から恥ずかしげもなく本心を紡ぎ出した。
短い呆れた溜め息に笑いを含めて、さとるくんがまた私を窘める。
「そういうの、誰にでも言っちゃ……駄目ですよ……」
「……」
「もし、……あなたに相応しい人が現れなかったときは……」
「……」
「……――ます……」
柔らかくて穏やかな音に癒され、ぎりぎりに留まっていた意識の淵から、安らぎを感じる場所へと身を投じた。
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