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真夏の刺すような陽射しも和らぎ、穏やかな秋の色への変化が見られる午後。
時間帯が少し遅いからか、いつもより大分空いている大学のカフェの入り口から、窓際の席の空きを確認すると、左手にあるカウンターへと足を向ける。
食欲の秋と言うだけあって、その動物の性(さが)的欲求に流される私は、少し前に比べると大分食欲を取り戻していた。
まあ、理由は多分……それだけではないのだろうけど。
秋の穏やかな雰囲気に見合ったそよ風のようなものが、微かに心を過ぎるのを感じながら、遅めの昼食を採るべく、カフェのカウンター前に立つ。
「いらっしゃいませ」
他に並ぶ客の居ないカウンターに対面してきたのは、このカフェの開店当初からここで接客業に勤しんでいる中村さん。
ほとんど入れ替わりのないここの店員を、学内の人であれば知らない人は居ないのではないだろうか。
人当たりが良く話し易い彼女に対して、以前、三十代には見えない愛らしい笑顔を褒めたところ、本人はその童顔がかなりのコンプレックスなのだと嘆いていた。
「こんにちは」と軽く挨拶をして、カウンターに置かれているメニュー表を吟味していると、
「“秋の味覚・きのこ和風パスタ”がおすすめ」
中村さんがにこやかな声でお勧めメニューをチョイスしてくれた。
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