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「明日からもまだ通常の業務、授業等ありますので、生徒達に流されないように気を引き締めて……」
三年生担当の先生方が目元を熱く滲ませている余韻を打ち消すかのごとく、つまらなく現実的な言葉を吐く教務主任。
いつもより少しだけ業務終了時刻が早いとはいうものの、間延びした教務主任の声の合間合間に、ちらちらと校長の頭上を窺ってしまう。
「今日もこれから予定あるんですか」
「え、ええ……ま、まあ……」
時計見過ぎ、とひそひそと隣から話しかけてくる山梨先生が、いつかのやり取りを思い出させ、にしりと笑った。
『先生、直ぐ顔に出るから』
そんなに、分かり易いんだろうか……
毎日、一瞬だけの彼との視線の逢瀬の時にも、持ち上がる口端の緩みは、確かに自覚していた。
式典の最中、造花を胸に携えた生徒達の中に、彼の姿をさり気なくも必死に探してた私の瞳は、……その姿を僅かに捉えられただけで、ふにゃりととろけていたかもしれない。
『そんな顔してたら、いつばれてもおかしくないですよ』
いつかあの子にも指摘されたことを鑑みて、直接的な接触は控えたいと彼に告げたことがあった。
『あなたがそうしたいなら、いいよ』
『……う、うん……』
『……』
『……』
『あきなさん』
『……うん?』
『本当に分かり易いね』
『うん?』
『俺の前でも強がるのは、悪い癖だ』
『……』
『でも、いいよ。……淋しいのはお互い様だし』
『……』
『俺が子供なのがいけないだけだし』
『そ、それは違うよ……っ』
『あなたが俺の為に耐えてくれるなら、……俺もあなたの為に我慢する』
『……ごめんなさい……』
『謝ることじゃない。二人で決められること、これから先の未来もずっとあなたと見据えられることが、……凄く幸せだよ』
『……うん……』
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