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  固まっている私を間に挟み、お構いなしにさくさく交渉は進められていく。 「お釣りは取ってて」 「意外。先生ってそういう黒い取引する人だったんだ」 「純粋な交渉だよ」 「でも、交渉決裂です。お釣りは受け取れません」 「それは困るな」 「大丈夫ですよ。学内の色んな情報持ってますけど、アタシ口が堅いことで有名なんです」 「知ってるよ。だからチャンスだと思ったの」 「わ、策士ぃ」 チャリ、とトレーに乗せられた硬貨が差し出される気配を後頭部に感じながら、何とか固まっていた口を開く。 「あ、あの……自分の分は……」 厨房の方へ遠ざかっていく足音を響かせる中村さんの対応に満足しているらしい瞳が、私の声に反応して間近に見下ろしてきた。 「二次の教員試験、どうだった?」 この距離で私の声が聴こえていないはずはないのに、全く会話になっていない言葉が返ってくる。 二つ折のスマートな長財布に硬貨が収められると、私の申し出をあっさり流した先生は、ゆったりと労いの言葉をくれた。 「先々週、辺りだったよね? お疲れ様」 「え、……は、はい……」 柔らかく細められる瞳に、……また密かに心臓が掴まれる。 「神園さんなら大丈夫だよ。僕が保障する」 「あ、ありがとうございます……」
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