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視界の滲みではっきりと捕らえることの出来ない黒の瞳に、淋しさを感じる隙なんて微塵も与えられずに、直ぐ様吹き出す安心感。 私をしっかりと抱き留めてくれる温かさに、深く深く擦り寄った。 背中から伝わる温もりと、胸元で感じる同じリズムの鼓動。 ぎゅっと強く彼の首の後ろに回した腕越しに覗く朧な視界に、携帯を握り締める自分の右手が見えた。 そこに提げられているガラス球と、薬指に光る石が、春の風を蔓延らせる空間を照らす陽射しを取り込み、……共に目映いほどの輝きを反射させ、私の瞳を眩ませた。 ずっと、ずっと……欲しくて堪らなかった、 私を包んでくれる温かな腕。 ずっと、ずっと……見つめていて欲しかった、 私を惹き込む深い黒の瞳。 ずっと、ずっと……私だけを想っていてくれると信じさせてくれていた、 私の名前を呼ぶ柔らかな声。 その全てを、何の後ろめたさもなく感じられることが、長い間の淋しさを吹き飛ばし、 ……今まで生きてきた中で、一番、幸せだと思わせてくれた。
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