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  にこにこと見下ろしてくる本田先生にたじろぐ私は、先生の飄々とした態度に、危うく今しがたの受け取れるはずのない義理を流してしまうところだった。 「あの、さっきの……」 握り締めていたロゴが型押しされた白の長財布を開き、動揺する思考の中でも、二つの注文の金額を足し算する。 「いいよ。合格前祝い」 財布のファスナーに指を掛けたところに、綺麗な指を揃えた手が、ぎりぎり触れない程度で制してきた。 折角の厚意だけれども、少し強引にでもお断りをしなければと、綺麗な指に遮られた視界を上へ向けた。 しかし、私を穏やかに見下ろし、眼鏡の向こうの目尻に浅く皺の寄せられたとても柔らかな笑顔に、……言葉を失くしてしまった。 「タダで受けることが気になるなら、……今度、食事に誘われてくれない?」 「……え……」 「君の貴重な時間を買わせて欲しいな」 「……え、と……」 「勿論、これだけじゃ安過ぎるから、そのときの食事代も出させてもらうし」 「……」 た、確かに…… 『……いいですよ。私はいつでも』 ……とは、言った。 『今度食事にでも誘ってみようかな』 あれ、冗談ではなかったんだ…… まさか本当に、本田先生がこんなに簡単に私を……女性を誘うとは、思わなかった。 先生の硬派なイメージに合わない発言に、あのときの落胆を思い出す。 先生に対する理想を勝手に造り上げたのは私自身なのに、それを崩されたことにやはり失望の念は隠せない。
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