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私の隣に移動する先生は視線を外さないまま、腰程の高さのカウンターに両腕を重ねる。
「ごめん……。本当に迷惑だったら、断ってくれても構わないから」
今までになく申し訳なさそうに眉を下げ、私よりも少し位置の下がった綺麗な瞳に見据えられると、
不覚にも、その瞳の誠実な色に……鼓動が乱れた。
「いえ……迷惑だなんて……」
「そう、よかった」
だけど、……
「……私、一応先生の教え子ですけど」
当然のように湧く疑問。
「んー、……分かってる」
外された視線は虚ろに落とされ、わずかに憂いを孕んでいるように見えた。
「でも、なんだろう……何て言ったらいいのか分からないんだけど、……君だと、思ったんだ」
「……」
「直感? タイミング……って言うのかな」
ほんの少しだけ綺麗な瞳が揺らいだように見えて、先生の心の深層を、その一瞬だけ垣間見たような気がする。
その瞳の色を放っておいてはいけないような気がするのは、……一体何なのだろう。
前に突発的に起こそうとした“自棄”とは、違う。
もしかしたら、先生は軽い気持ちなわけではないのかもしれない。
「……絶対に、君の迷惑になるようなことはしない」
ちゃんと“私”を選んだ上で、こうやって誘ってくれてるんだと、誠実で綺麗な瞳が……そう思わせるのだろうか。
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