8217人が本棚に入れています
本棚に追加
店主に声を掛け、烏龍茶を二つ頼んだ先生を、再びこっそり盗み見ると、突然こちらを向いてきた綺麗な瞳に、どき、と驚いた。
大袈裟に瞬きをしてしまった私に、不思議そうな微笑みで首を傾げてみせる先生は、私の傍らにあった空のグラスに手を伸ばしてきた。
綺麗な指がグラスの口辺りを掴んだ動作に、
……記憶の片隅で影を潜めていた、彼の面影が、そっと蘇る。
風化していた感覚が燻り出し、彼からもらったあの熱に火照り始める頬は、
……きっと、自分の失態からの羞恥を思い出してしまった所為、……だ。
空のグラスをテーブルの端に寄せる先生の手元を追いながら思う。
酔っていたからとは言え、彼女でもない女の子にあんなに優しくするのは、男の人だったら普通のことなんだろうか。
彼がたまたま『無害な男』だっただけであって、男の人は誰でも……
「先生も……」
「ん?」
「こんな風に、軟派なことするんですね」
緩む自制心と、またしても勝手な思い込みからの失望に不貞腐れる私は、不躾な言葉を吐いてしまった。
自分のグラスを手に取った先生は、持ち上げる動作を止めて一度目を見開いてから、すぐさまふわりとその瞳を細める。
「……おれとしては、結構な勇気と覚悟を持って誘ったつもりだけど?」
そうは見えなかった? と苦笑いを含め、少しトーンの落ちた声が返ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!