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  * 無音ではないなだらかな静寂の中で、ゆったりとした時間の流れを満喫した後、誰にも急かされることなく店を後にした。 「ご馳走様でした」 「いえ。こちらこそ、付き合ってくれてありがとう」 低いボリュームで聴こえるラジオは、対向車の過ぎる音に時折掻き消される。 この時期は夜になるとぐっと気温も下がり、肌寒く感じた車内も、足元からの緩やかな温風でまったりと和んだ。 その温かさと、若干許容をオーバーした満腹感に、車の揺れは、緊張していたはずの私に、究極的な安らぎを与えてくる。 「合格発表、いつだっけ?」 睡魔に手を掛けられる寸前に、沈黙を長引かせなかったのは本田先生だ。 「えと、……今月20日頃だったと思います」 「そしたら、お祝いしなきゃね」 「えっ、今日が前祝いって……それに、まだ合格って決まったわけじゃないですし……」 この間の昼食と今日の御馳走で、お祝いされるには充分過ぎるほどのもてなしを受けた。 これ以上は流石に遠慮しなければと、先生の横顔を見上げると、小さく穏やかな笑い声が向けられる。 「気づいてもらえないのもちょっと淋しいけど、……口実だよ。また君との時間を過ごすための」 ただの口上なのか、本気なのか、恥ずかしげもなく続けられた言葉に、先生を捉えた視線が硬直する。 「……」 カーステレオの僅かな明かりに浮かび上がったラインの綺麗な横顔と、ささやかに煌く瞳の色に……胸の奥がざわついた。
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