8217人が本棚に入れています
本棚に追加
少しだけ沈黙を挟み、先生は躊躇うように口を開く。
「しばらく……」
「……」
「元気、なかったよね」
見つめ続けている横顔は、私を捉えるために一瞬だけこちらを向く。
瞬間的に、びく、と肩を揺らすと、綺麗な瞳の視線は、またすぐに前方へと向き直った。
「どうしたんだろう、って思ってた」
「……」
「……いや、深くを追求するつもりはないんだけど……」
返答しなった私を気遣い、一層穏やかな声を出した先生に……とく、とささやかに胸が反応する。
先生、も、……私が口にしていない心に気づいてくれていた……
……でも、深くには、来てくれない。
「ちょうど夏休み前くらい。おれのところに来たときも、今みたいな瞳、してたから……気になり出したら止まらなくなって……気づいたら声かけてた」
正面を見据える瞳は私を映してはいないはずなのに、それでも、穏やかな声で語られる言葉は、しっかりと私に向けられている。
「……彼、と……」
気づいた深層に、触れては来ない先生に、
「……別れたんです」
自ら、心の内を曝け出そうと思ったのは……
「友達に、……気持ちが移っちゃったみたいで……」
真っ直ぐな言葉をくれる先生なら、やっぱり優しくて温かな掌を持っていて、……私を甘えさせてくれるんじゃないだろうかと、思ったからだ。
最初のコメントを投稿しよう!