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「私が、彼のためを思ってしていたことは、……ただの独り善がりで……
結局、私のしてきたことが、彼を遠ざけてしまう原因だったんです……
本当に彼のために自分のやるべきだったことだけが、今、後悔として、ただむなしく心に残ってて……」
「……」
あの夜、彼の手に導かれて落ち着いたはずの心は、
……その内を曝け出すことで、再び温もりを求める。
『我儘に自分を求めてくれる方が……』
一度、温かさを味わうと、その甘さは癖になる。
「だから、もう後悔はしないように、って、しっかりと前を見て……先生とのこの出逢いも、私にとっては必要なことだったのかもしれないって、
思った、のに……」
これはやっぱり、先生への期待だと思う。
もう一度……温かな手に、優しく触れて貰いたくて……
それを、先生は叶えてくれるんじゃないかと、思ったんだ。
でも……
「先生は……」
「……」
「もしかしたら、私じゃなくてもよかったんじゃないかって……思ってしまうんです……」
「……」
正面を見据えたままの瞳が、硬直したのがわかる。
運転中で外せない目線を、一瞬だけこちらに向ける先生は……ふ、と小さく微笑んだ。
「おれは多分、……」
「……」
「……君だったから、声を掛けたんだと思うよ」
温もりを求め、じっと見据える先の横顔は、私の期待に近い言葉をくれる。
だけど、その横顔は穏やかに微笑んでいるのに、
……あの日カフェで見た憂いが、再び綺麗な瞳の奥に込められたように見えた。
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