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思いの外すんなりと出た言葉は、私にしては思い切ったもので、自分の言葉じゃないような気がした。
大胆な発言にどくどくと脈が上がり、次第に頬が上気してくると、見開かれた先生の瞳からそろそろと視線を外し、顔を俯かせてしまった。
「あ、の……今日は本当に、ありがとうございました」
「い、いや……」
シートベルトを外し、ちゃんと先生の顔を見れないまま、「おやすみなさい」と呟き、ドアを開ける。
横向きになり足を降ろしたところで、
「しつこいくらいに、するかも……」
と、少し上擦った先生の声を背中に受けた。
「……待ってます……」
首を回したものの、ちゃんと先生の綺麗な瞳を見る事が出来ずに、
運転席の肘掛に置かれた左腕の先で、月明かりに照らされた温かそうな掌だけを一瞥すると、
「……おやすみ」
と向けられた優しい声に、酷く胸がざわついた。
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