23/25
前へ
/673ページ
次へ
  思いの外すんなりと出た言葉は、私にしては思い切ったもので、自分の言葉じゃないような気がした。 大胆な発言にどくどくと脈が上がり、次第に頬が上気してくると、見開かれた先生の瞳からそろそろと視線を外し、顔を俯かせてしまった。 「あ、の……今日は本当に、ありがとうございました」 「い、いや……」 シートベルトを外し、ちゃんと先生の顔を見れないまま、「おやすみなさい」と呟き、ドアを開ける。 横向きになり足を降ろしたところで、 「しつこいくらいに、するかも……」 と、少し上擦った先生の声を背中に受けた。 「……待ってます……」 首を回したものの、ちゃんと先生の綺麗な瞳を見る事が出来ずに、 運転席の肘掛に置かれた左腕の先で、月明かりに照らされた温かそうな掌だけを一瞥すると、 「……おやすみ」 と向けられた優しい声に、酷く胸がざわついた。 .
/673ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8218人が本棚に入れています
本棚に追加