第1章

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 大人から離れたアレクの後ろをつけて行き、なんと、トイレの中まで押しかけていったのだ。    今思えば、なんて事をしたのかと、昔の自分を殴ってしまいたい気分になる。      当時、兄達に囲まれて育ったせいで、自分が男の子だと思っていた私は、アレクと友達になりたい一心でトイレまでついていたのだった。      用を足しているアレクに近づき、私は覚えたロシア語で話し掛けたのだ。    不信げな表情のアレクに構わず、自分の自己紹介をしはじめた事を覚えている。      用の終わったアレクが手を洗い終わっても、馬鹿みたいに『友達になって』と、何度も言葉を繰り返した。      まだ覚えたばかりのロシア語は、一方的に言う事ぐらいしか出来ず、アレクの言葉を理解できない。    そんな私に痺れを切らしたのか、はたまた呆れられたのか、アレクは疲れたような表情で友達になることを了承してくれたのだ。      さすがに今は、完全に一方的な展開により、仕方なく友達になることを了承するしかなかったのだとはわかっている。      無理やりごり押しで友達になれた私は、さっそくアレクの髪や肌を遠慮なく触りまくり、アレクを怒らせていたのだが、言葉が通じなかったせいで、何を言われているのかわからない私は、心ゆくまでアレクを触りまくったのだ。    もう、ここまでくると嫌がらせとしかいえないだろう。    けれど昔からクールだったアレクは、その間、手を出すのを我慢し、ひたすら忍耐力と戦っていたのを今の私には充分すぎるほど判っている。      私が逆の立場だったらきっとすでに殴ってたと思うけどね。    どうやら私は、その時に非常にありがたくない感情をアレクに芽生えさせてしまったようなのだ。
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