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すぐにでも声をかけたいが、距離もある上に人混みに遮られている。
バイオリンケースの彼女には、きっと声すら届かない。
「すいません、すいません」
謝りながら、人混みをかき分け彼女に近づく。
すると、彼女は人気の無い路地裏へと入っていった。
不審に思いながら、僕も路地裏へ入る。
表通りは、あんなに眩しいのに…ここはすごく薄暗い。
まるで明暗がハッキリ別れた僕の人生みたいだ。
表通りは他人…路地裏は僕。
そう思った瞬間、物陰から現れた誰かに僕は脇腹を殴られた!
激痛が走る…バイトの先輩のパンチよりダメージが高い。
もし、お腹いっぱい食べていたら嘔吐していただろう。
思わず膝をついたところで、今度は脇固めをされた。
痛みと共に女性特有の良い香りがほのかに漂う。
「あなた…私をつけてきたわね?」
驚いた…さほど背も高くない、可愛らしい感じのバイオリンケースの彼女が僕の脇腹にパンチをして脇固めを極めている。
格闘技でもやっているのだろうか?
「あなた、仁保の仲間?なんで私をつけてきたか…答えなさい!」
更に痛みが増していく!
「仁保?何の事だよ…ただ、僕は君に聞きたい事があって…」
眉をしかめ、彼女は言う。
「聞きたい事?彼氏ならいないわよ」
「そんな事じゃない…僕が聞きたいのはレンジさんの事だ!君、彼と親しいよね?」
すると、彼女は小さな声で呟いた。
「親しくなんか…ないわよ。どいつもこいつもレンジ、レンジって…どこが良いのよ、あんなヤツ!」
どうやら、今はレンジさんとうまくいってないようだ…この様子じゃ、彼の事を聞き出すのは難しいかも知れない。
「ねぇ、そろそろ手を離してくれないかな!?」
彼女は手を離すと同時に、僕の背中を蹴った。
壁にぶつかる僕…なんだって、こんな目にあっているんだろう?
振り返ると、彼女との距離が離れている。
「あなたが何者か知らないけど、レンジを知ってる時点で怪しい…敵の可能性が高い。これ以上、私につきまとうなら警察に通報するわよ!」
どうやら、彼女は僕と話す気は無いらしい。
その強い眼差しから察する…見ず知らずの人間に知り合いの事をペラペラ喋るようなタイプでは無いのだと。
それにしても、敵って何だ?
僕が考えているうちに、彼女はこの場から立ち去ろうと背を向けた。
このままでは、また振り出しに戻ってしまう!
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